外国人材の受け入れと多文化共生を目指す未来への提言
まずは日本社会が抱えている大きな課題を整理していますので、日本が進めている政策の全体像とあわせて「目次」から把握してみてください。
人口減少時代を迎える日本社会の現実、6つの課題と対策
2050年の日本の人口については、いくつかの異なる予測がありますが、多くの専門家や機関は、日本の人口が大幅に減少すると予想しています。
国立社会保障・人口問題研究所(IPSS)の予測によれば、2050年には日本の人口は約1億人以下になる可能性があります。具体的な数値は約9700万人とされています。
いまより2,800万人の減少=現在の東京都+大阪府、加えて群馬県+栃木県に暮らす人全ての総和より多い人数が日本列島から消えていなくなるような数値、人口減少です。
人口の減少は経済や社会構造に大きな影響を与えるため、政府や自治体はさまざまな対策を講じていますが、状況の改善には時間がかかると考えられています。
具体的な課題と対策で、よく私たちの耳目に触れることを6つにまとめてみましょう。
出生率向上対策
子育て支援の充実:育児休業制度の拡充、保育施設の整備、子育て支援金の支給など。
教育費の軽減:幼児教育の無償化や奨学金制度の充実。
高齢者支援対策
介護サービスの強化:介護施設の増設や在宅介護支援の拡充。
高齢者の雇用促進:定年延長や再雇用制度の整備。
労働力の確保
外国人労働者の受け入れ:技能実習制度の拡充や特定技能ビザの導入。
女性の社会進出支援:働きやすい環境の整備、企業・官公庁の女性管理職登用促進。
地方創生
地方への移住促進:地方移住支援金の提供、地方での起業支援。
地域活性化プログラム:地方の観光資源を活用した経済振興策。
技術革新
AI・ロボティクスの活用:労働力不足を補うための技術導入、介護や農業分野でのロボット利用推進。
スマートシティの推進:都市機能の効率化と住民の生活質向上を図るためのスマートシティプロジェクト。
教育と人材育成
教育改革:グローバル人材育成のための英語教育の強化やプログラミング教育の導入。
職業訓練とスキルアップ支援:労働者のスキルアップを支援する職業訓練プログラムの充実。
これらの対策を通じて、日本政府は人口減少と高齢化による社会的・経済的影響を最小限に抑え、持続可能な社会の実現を目指しているとされています。
外国人の受け入れを私たちはどう考えていけばよいのか?
こうした日本の現実を踏まえたうえで、外国人材の受け入れはどう考えればよいのでしょうか?
外国人材の受け入れについては、以下のような課題の解決を考える必要があります:
労働力の補完
日本は少子高齢化の進行により労働力不足がより深刻化しています。外国人労働者の受け入れは、経済活動を維持し、産業の持続可能性を高めるための重要な手段です。
多文化共生の推進
外国人材を受け入れることは、多文化共生社会の実現にも寄与します。異なる文化や価値観を持つ人々との交流を通じて、日本社会全体が多様性を尊重し、国際的な視野を広げることができます。
技術・知識の共有
外国人材の受け入れは、技術や知識の共有にもつながります。特定の分野で優れた技能を持つ外国人労働者が日本に来ることで、国内の技術革新が進み、国際競争力が向上することが期待されます。
地域活性化
地方自治体が外国人労働者を積極的に受け入れることで、地域経済の活性化が図られます。過疎化が進む地域での外国人労働者の定住は、人口減少対策としても有効です。
外国人材の受け入れに関する課題と対策
言語と文化の障壁
対策:日本語教育の充実や文化理解プログラムの提供が必要です。職場や地域社会でのコミュニケーションを円滑にするためのサポート体制を整えることが重要です。
労働環境の改善
対策:外国人労働者が安心して働ける環境を整えるために、労働条件の改善や差別防止対策が求められます。これには、法的な保護の強化や労働者の権利に関する教育が含まれます。
社会統合
対策:外国人労働者が地域社会に溶け込み、地元住民との交流を深めるためのイベントやプログラムを実施することが必要です。また、行政サービスの多言語化や相談窓口の設置も重要です。
課題の整理と政策を考えるときに忘れてはならないこと
包括的な移民政策の策定
労働力としてだけでなく、社会の一員として外国人材を受け入れるための包括的な政策が必要です。
外国人労働者の権利保護
労働環境の改善や法的保護の強化を図り、外国人労働者の人権を尊重する取り組みを推進。
地域社会との共生
地域レベルでの共生プログラムを強化し、外国人と日本人が共に暮らしやすい社会を築くための支援を行う。
教育とスキルアップ
外国人労働者の日本語教育や職業訓練プログラムを充実させ、彼らのキャリアパスを支援する。
これらの視点から、外国人材の受け入れを積極的に推進し、多文化共生社会の実現を目指すことが重要だと私たちは考えています。
日本人と外国人が共に暮らし、働いていくために私たちには何ができるのか?
はじめの一歩は「対話」だと考えます。まず、ちゃんとしっかりと相手の話を聴く。そして私たちの考えを丁寧に伝える。
対話の重要性と留意点:日本人と外国人の相互理解と尊重を深めるためには、まず対話において、以下の点に留意することが重要です:
文化的な違いを尊重する
価値観や習慣の違いを理解する
異なる文化背景を持つ相手の価値観や生活習慣を理解し、尊重する姿勢を持つことが大切です。衣・食・住・遊、生活習慣、労働・仕事に関する考え方や価値観は相手の出身国や地域、育ってきた時代や環境によっても違っていて当たり前だと前提に立つことが大切です。
宗教や信仰に配慮する
宗教的な信念や儀式に対して敬意を持ち、無理に同化させようとしないようにしましょう。
言葉の壁を意識する
言語が異なる場合は、簡潔で明瞭な言葉を使い、相手が理解しやすいように心掛けます。
非言語コミュニケーションに注意を向ける
表情、ジェスチャー、ボディ・ランゲージなどの非言語コミュニケーションも文化によって意味が異なるため、注意を払いましょう。
偏見やステレオタイプを避ける
先入観を持たず、個人≒一人の人間として、目の前にいる相手を理解しようとする姿勢が重要です。
対話を重視する
よく相手を見て、しっかりと向き合い、丁寧に質問をし、相手の意見を聞くことで相互理解を深めます。
忍耐と理解
生身の人間同士です。相性によって合う合わないはあって当然です。異なる常識、さまざまな思い込みによる衝突、言語や文化の違いから誤解が生じることもあります。忍耐強く接し、誤解を解消するための努力を惜しまないようにしましょう。
共感する
相手の立場になって考えることで、理解を深めることができます。
共通の関心を見つける
共通の興味や趣味を探ること。お互いの共通の話題や興味を見つけることで、自然な対話が生まれやすくなります。私たち一人ひとりのコミュニケーション・スキルも鍛えられます。
イベントや活動を共有する
文化交流イベントやワークショップなど共同活動を通じて、お互いの文化を体験し、理解を深めることができます。
知識を広げる
学び続ける姿勢
相手の言語、生活文化や歴史について学ぶことで、対話の質が向上します。
情報を共有する
自分の文化についても相手に伝え、相互理解を促進します。
これらのポイントを心掛けることは誰にでもすぐできることではないかもしれません。しかし、こうしたことを意識して習慣化し、さまざまな困難を乗り越え、日々の弛まぬ営みに組み込まれていけば、日本人と外国人がより良い関係を築き、相互理解と尊重を深めることができるでしょう。
「対話の重要性」について、本気で考える人におススメの本
対話型ファシリテーションの手ほどき
対話型ファシリテーションとは、NPO法人ムラのミライが、国際協力の現場で使える実践的なファシリテーション手法として開発した課題発見・解決のための対話術です。
この本では、その対話術の初歩を、身近な事例を中心にわかりやすく解説しました。 以下のような悩みを解決したい方にオススメです。
- 相手の悩みを解決するのを手伝ってあげたいけれど、どうしてよいのかわからない
- 相手のことを知りたくていろいろ聞くけれど、本音を語ってくれていないと感じる
- 問題について話し合っても、話が上滑りしてしまう
『対話型ファシリテーションの手ほどき』は、対話を重視したファシリテーションの基本から応用までを網羅しており、実践的で役立つ内容が豊富です。特に、具体的な事例や手法が多く紹介されているため、すぐに現場で活用できる知識とスキルを身につけることができます。
対話を通じて問題を解決し、参加者同士の理解を深めることの重要性が強調されています。この視点は、現代の多様な価値観や背景を持つ人々が共に働く場面で特に重要です。
それでも、対話をはじめよう
原題: "Solving tough problems"の著者アダム・カヘンは、国際的な紛争・対立を解決してきた専門家であり、様々な対立状況において協力を促進する経験を持っています。異なる意見や価値観を持つ人々と協力し、共通の目標を達成するための方法について探求しています。
特に対立や困難な状況においても対話を通じて解決を図りたい人におススメです。
さあ、皆さんはこれまで外国人材との協働や多文化共生にどんなお考えをお持ちでしたか?
1990年入管法改正から35年。当時この法案成立の下地作りに貢献した大泉町の企業経営者、東毛地区の財界人、政治家、公務に携わる人、町民の汗はこの町を大きく変え、日本一多文化共生が進む町へと深化させてきました。
今日、さらにこれからの日本社会における労働の担い手不足はより深刻になるでしょう。「都合の良い働き手」の確保という観点からでなく、真の多文化共生を切り開く道筋をつけられるか否か、さらなる試行錯誤、多文化共生の未来を切り開く現場最前線からお届けしていきます。
この記事が多文化共生と外国人材との協働について考えるきっかけになればと思っています。それではまた。
文・構成:小関達哉